「…やっぱりアリスも連れて来れば良かったかなー?」
 頭の後ろで手を組んで、オズは言った。
 「駄目だ。あの馬鹿ウサギがいたら金がいくらあっても足りない」
 ギルバートが不機嫌そうに言って舌打ちをする。
 「ははっ そうかもね」
 オズは、ポケットから飴をひとつ取り出した。
 「ブレイクに貰ったんだけど…ギルも食べる?」
 「いらん」
 少し残念そうにしたが、気にせず飴を口に放り込む。
 「オズ、晩飯何がいい?」
 「…んー」
 目を瞑って考えてから、オズは
 「ビーフシチューかな」
 と言った。
 「また肉か」
 ギルバートが呆れたように呟く。
 「だって魚だとアリスが怒るし」
 ギルバートから逃げるように数歩前に出ると、オズはくるりと振り向いた。
 「…たまには魚でもいいだろう。昨日も一昨日も肉だったんだぞ?」
 「そうなんだけどさ」
 ギルバートが追いついてくるのを待って、再び並んで歩き始める。
 「…なんか、アリスが嬉しそうに肉を食べてるのを見ると、平和だなーって思えてくるんだ。俺は、そういう時間が好きなんだよ」
 「……」
 ギルバートは、帽子を深く被って
 「俺には食費を増やす大食いにしか見えんがな」
 と呟いた。
 「なんだよ心狭いぞギルー」
 オズが口を尖らせる。
 「…お前は知らんと思うが、あいつの食事の量は半端じゃないんだぞ?小さいくせに食う量だけは大人以上で、しかも野菜や魚はほとんど食わないし、毎日同じ肉だと『飽きた』だの何だのと文句言いやがって…」
 「……」
 オズは再び頭の後ろで手を組むと、ギルバートをちらりと見た。
 「…アリスのこと、よく見てるんだね」
 途端にギルバートの眉間に皺が寄る。
 「何の冗談だそれは。俺が馬鹿ウサギをよく見てるわけないだろう」
 「でも、アリスのことをちゃんとわかってる」
 言いながら、オズはギルバートの頭から帽子を奪った。
 そして、それを被り目を細める。
 「…それは、3人で生活していれば嫌でもわかってくるさ」
 ギルバートは帽子を取り返そうとはしない。
 その代わり、頭に手を当てて溜息をついた。
 「確かに、ウサギさんは寂しいと死んじゃうけど…お前のマスターは俺なんだぞ?」
 ギルバートに背を向けたオズは、小さく呟く。
 「?」
 「…だから」
 振り向いたオズの瞳は、従者を見る主人のそれでなく、やきもちを焼く15歳の少年のものだった。
 「俺のことも、ちゃんと見てろよ」