『本当に…私の願いを叶えてくれる…? なら…私は…』
 「…ブレイク?どうかしましたか?」
 シャロンに声をかけられ、ブレイクは我に返った。
 「あぁすみません、少し居眠りをしてしまったようデス」
 ブレイクがそう答えると、シャロンは「まぁ」と小さく呟いた。
 「貴方が居眠りだなんて…何かあったんですか?」
 心配そうにブレイクを見る。
 ブレイクはシャロンを見つめ返すと、くくっと笑って
 「私の心配よりご自分の心配をしてくださいお嬢様。最近紅茶を飲みすぎてませんカ?今日は一体何杯飲んだんです?」
 と問い返した。
 「きっ今日はこれが一杯目…のはずですわっ」
 シャロンは慌ててそう答える。
 「話を逸らさないで下さいブレイク。それに、心配くらいさせてください。どこか体調が悪いのでは?」
 「シャロン」
 ブレイクはシャロンの言葉を遮るように短く呟く。
 「大丈夫ですヨ。…お嬢様、なんだかお節介なおばさんみた」
 「レディーに向かってなんて事言うんですか貴方はっ」
 シャロンの制裁の一撃がブレイクに直撃する。
 「そんな事を言えるのなら、心配する必要もありませんでしたわね」
 不機嫌そうに言って、シャロンは紅茶を飲んだ。
 「…まったく、心配して損しましたわ」
 「それは申し訳ありませんでした。お詫びにケーキでも如何ですカー?」
 言いながら、ブレイクは皿を差し出す。
 「私の機嫌をとるつもりですの?」
 その手には乗らないと言わんばかりだ。
 「あれ、もしかして食べないんですカァ?美味しいのに…」
 ブレイクはわざとらしく、ゆっくりケーキを遠ざけていく。
 「あ、いや…でも、ケーキは頂きます」
 コホンと咳をして、シャロンはケーキを受け取った。
 そして、にやにやと笑うブレイクの視線を感じながらそれを口に運んだのだった。
 「…別に、体調が悪いわけではありませんヨ」
 言いながら、ブレイクは角砂糖を一つ口に放り込んだ。
 「ただちょっと…考え事をしていただけデス」
 がり、とそれを噛み砕く。
 「…そうでしたの。深追いしてしまってすみませんでした」
 シャロンは手に持っていたフォークを皿に置いた。
 「気にしてませんヨ。お嬢様は変なところで心配性ですからネェ…」
 「変なとは失礼ですわね。私はただ貴方の…ザクス兄さんの為を思って」
 その瞬間、ブレイクの指がぴくりと動いた。
 「お嬢様、気持ちは受け取っておきマス。ですがこの先、“誰かの為に”を言い訳にして事を起こすような真似は絶対にしないで下さいネ?」
 「…? …はぁ…」
 シャロンは突然そんな事を言われて、拍子抜けしてしまったようだ。
 「私の大嫌いなネズミさんが、よくそんな言い訳をするんですヨ」
 「…ネズミさん…?」
 「……」
 少しの沈黙。
 「…さて、それではオズ君たちの様子でも見に行きましょうか」
 ブレイクはテーブルから降りて苦笑する。
 それにつられて、シャロンも
 「そうですわね」
 と言って微笑んだ。

 アヴィスの意思…いやアリスかな?
 君の願いを叶えるのは、もう少し先になりそうデス。
 今はまだ、この生活を楽しんで居たいんですヨ。